NHKドラマ『男たちの旅路』
2003.04.14

人間、一生にひとつくらいは「忘れられないドラマ」があるんじゃないかなぁ。
大御所では『北の国から』が印象深いと思いますし、最近では『Good Luck』や『ぼくの生きる道』なんかも注目を集めましたねぇ。
でも、ぼくにとって最も印象強く、何回見てもその時々に違う感動を覚え、そして、みんなにも勧めたいドラマが、ひとつだけあります。

そのドラマは、1976年〜1982年まで、NHKの「土曜ドラマ」で不定期に放映された『男たちの旅路』という作品です(全13話)。
脚本は山田太一氏。
今までにもたくさんのドラマに出会い、それなり思うところはありましたが、『男たちの旅路』のインパクトを超えることはできませんでしたね。
あのドラマほど、ぼくの魂を揺さぶる作品はなかったなぁ。
ミッキー吉野(ゴダイゴ)が担当した音楽も素晴らしくてね、サウンドトラックのミュージックテープも買ったくらいです。(LPも発売されていたんですが、なぜかぼくの街ではテープしか売っていなかったんです)


戦争時代、特攻隊に在籍した体験を持つ吉岡晋太郎(故・鶴田浩二=当時50歳)を中心に、今が楽しければそれでいい自己中心的な若者・杉本陽平(水谷豊=当時22歳)、生きる目的を失い欠けた女性・島津悦子(桃井かおり=当時20歳)など、個性的なキャラクタが、警備会社を舞台に遭遇する様々な事件と関わっていくという、社会派でありながら、感傷的なドラマです。

扱うテーマも、「集団暴行」「老人問題」「汚職事件」「青少年の非行」「福祉問題」「生と死(自殺問題)」など、今から四半世紀ほど前の作品にも関わらず、現代でも十分ありがちな問題を、鋭い「言葉」でえぐり出しています。
こうして考えてみると、今も昔も、社会の根底に巣くう問題は、全然変わっていないんですね。
っていうか、ますます非道くなっているかも知れないなぁ。

そんな「今」だからこそ、『男たちの旅路』を改めて見直してもいいんじゃないか、ってことで、NHKが2003年5月3日〜6月7日までの毎週土曜日、このドラマをBS2で放映します。
残念ながら、全13話中、今回放映されるのは第一部と第二部の6話だけですけど………。
それだけでもぼくにとってはうれしいですね。
一応DVDも発売されているのですが、ちょっと金がなくてね、録画して残すには絶好のチャンスです。

そう言えば『男たちの旅路』のシナリオ集、以前買ったことがあったなぁ〜、って、本棚の奥を探してみたら、まだ残っていました。
てっきり捨てたかと思っていたので、なんかじ〜んときちゃいましたよ。


『男たちの旅路・傑作選(山田太一著・NHK出版)』1976年刊

で、早速読んだのですが、ぼくがシリーズの中でいちばん印象に残っていた『冬の樹』も収められていたので、改めて台詞の心地よさに酔いしれました。

『冬の樹』のプロットは、
「人気ロックグループ(ゴダイゴ)にファンが殺到し、一人の女子高生が頭を打ち気絶する。彼女を自宅へ送り届けた吉岡たちを、父親は厳しく非難。吉岡は、警備会社にのみ責任を押しつける父親の態度に憤り、逆に彼を叱りつけてしまう」(NHKオンラインより)
というものです。

この作品は、珠玉の言葉たちがたくさんちりばめられている名作中の名作ですが、吉岡が女子高生の父親に発する台詞の数々が、とにかくすさまじい。
父親になった今、改めてそのすごさを実感しますね。
なんか、自分のことを言われているような気がするんですよ。



「自分を棚にあげて、権利の主張ばかりして来たんだろう。その子供が、自分を棚にあげても無理はない。
(中略)
私の誠意だ。娘さんを叱りなさい」

「居丈高に人を非難したかと思うとたちまち卑屈な顔になる。生き方が決まらんから、娘を満足に叱ることもできん。怒鳴ったり、甘やかすことしかできんのだ」

「私はこういう人間たちが、子供の親だということに我慢がならん。
(中略)
いい年をして、まだ子供じみていて、自己中心的だ。子供を愛するということを知らん。子供の生活に、本当に心を寄せたことがあるか? どんなことを考え、どんな淋しさを持っているのか、本気で想像したことがあるか。子供はもう一人前だとかなんとか言って、子供から逃げているんだ、あんたらは」

「勉強しろとおどかす以外、子供を教育するということを知らんのだ。自分を愛しとらんから、子供を愛することもできんのだ。あの子はな、あの子は、まだ一人前じゃあないんだ。叱ってやらなきゃぁいかんのだ。抱きしめてやらなきゃいかんのだ」



ちょっと過激な台詞が続きますが、ストーリーの流れから行くと、かなり自然に受け入れることができます。
『冬の樹』というタイトルもステキですよね。
自分の本当の気持ちをだれもわかってくれない寒い季節の中で、一生懸命伸びようとがんばっている若い樹。
う〜ん、そう言えばぼくにもそんな青春時代があったなぁ。
『男たちの旅路・傑作選』に掲載されている、山田太一氏とプロデューサー氏の対談によると、全作品中、この作品への反響がいちばん多かったということです。

この『冬の樹』、2003年5月31日の夜10時30分から、NHK BS2で放映されますので、興味のある方は、ぜひご覧になってください。